事業承継ハック!承継のリアル大公開 ~㈲ドルチェ様編~
3代で紡ぐ美容室の未来
父の急逝、コロナ禍を乗り越え、地域を美しく照らす事業承継
熊本市で長年愛され続けてきた美容室「有限会社ドルチェ」。
地域に根ざし、お客様一人ひとりの美しさを引き出してきたその歩みには、家族の絆、数々の試練、そして地域への深い想いが刻まれています。
今回は、お母様から事業を承継し、3代目代表取締役社長に就任された小田正巳様にお話を伺いました。
父の急逝、熊本地震、コロナ禍によるブライダル事業への大きな打撃。
幾度もの困難を乗り越えながら、事業を受け継ぐ覚悟をどのように固めていったのか。
小田社長の率直な言葉から、後継者にとって大切な心構えが見えてきました。
対談者紹介
話し手:小田 正巳 様
有限会社ドルチェ 代表取締役社長。
幼少期から両親が働く美容室を見て育ち、自然と美容の道へ。横浜での修行を経て熊本に戻り、家業を支える。2025年8月、3代目社長に就任。地域に愛される美容室づくりに取り組んでいる。
聞き手:岡本 夏樹
想いをつなぐ事業承継 代表
株式会社そうごう保険SHOP 代表取締役。
岡本自身が父の相続で事業承継を行っている。自らの経験や顧客の相談事例をもとにお客様の事業承継の支援を行っている。
熊本の美を支える、美容室とブライダルの二本柱
岡本:本日はお忙しい中ありがとうございます。まずは、有限会社ドルチェ様の事業内容について教えていただけますか。
小田:有限会社ドルチェは、美容室とブライダルの二つを事業の柱としています。美容室では、カット、カラー、パーマといった一般的なメニューに加え、セット、着付け、メイクまで対応しています。
ブライダル事業では、結婚式での新郎新婦様やご親族のヘアメイク、着付けなどを一式でお手伝いしています。美容室としての日常の仕事と、人生の大切な節目に関わるブライダルの仕事。その両方を大切にしてきました。以前は売上の7割ほどをブライダル事業が占めていた時期もありました。
結婚式や成人式、卒業式の時期は、早朝4時、5時から仕事が始まることもあります。大変ではありますが、ヘアセット、着付け、メイクまで一貫して対応できるスタッフがいることは、私たちの大きな強みです。
岡本:長年の信頼があるからこそ人生の節目で頼られるお仕事ですね。お客様にとっても、ドルチェさんにまとめてお願いできる安心感は大きいと思います。
美容の道へ進んだきっかけ
岡本:創業はいつ頃になるのでしょうか。
小田:両親が1986年に保田窪の方で美容室を開業したのが始まりです。その後、私が横浜での修行を終えて熊本に戻り、現在の店舗を立ち上げました。
当初は保田窪と現在の店舗の2店舗体制で、両親と私たち夫婦でそれぞれを切り盛りしていました。法人化したのは2006年です。
岡本:小田社長が美容の道に進まれたきっかけは何だったのでしょうか。
小田:もともとは、家業を継ごうと強く思っていたわけではありませんでした。家と美容室が隣り合わせだったので、小さい頃から両親が働く姿を見るのが当たり前だったんです。
その環境の中で、いつの間にか自然と「自分もやってみようかな」と思うようになりました。高校卒業後は県立の技術訓練校の美容科で学び、その後、横浜で4年間修行しました。
両親は、私が美容の道に進むと聞いて、口には出しませんでしたが喜んでくれていたと思います。私は3人兄弟の一番下で、上に継ぐ者がいなかったので、安心した部分もあったのではないでしょうか。
岡本:親の背中を見ながら、自然と家業を意識するようになったのですね。事業承継ではよく聞くお話ですが、小田社長の場合も、強制されたというより、日々の姿を見て心が動いていったのだと感じます。
父の急逝。突然訪れた大きな転機
岡本:これまでの道のりは、決して平坦ではなかったと伺っています。
小田:はい。大きな転機となったのは、私が33歳の時に父の急逝したことでした。
当時の私は、家業に携わってまだ3年ほどでした。現場の仕事はしていましたが、経営のことまで深く分かっていたわけではありません。正直、何が何だか分からない状態でした。その後、代表は母が継ぐことになりました。
岡本:突然の出来事で、ご家族としても会社としても、本当に大変な時期だったと思います。
小田:そうですね。また、2016年に熊本地震が発生し、その後、大きな美容室の店舗を建て移転しました。ここから更に頑張っていこうと思った矢先にコロナウイルスが来ました。
このときは、特にブライダル事業は大きな打撃を受けました。結婚式の延期やキャンセルが相次ました。主力だったブライダルが止まったことは、会社にとって非常に苦しい出来事でした。
岡本:お父様の急逝、熊本地震、そしてコロナ。まさに次々と重大な事態が直面する時期があったのですね。
「このままではいけない」事業承継への決意
岡本:そうした状況の中で、代表交代を決断されたきっかけは何だったのでしょうか。
小田:母が代表になってからも、私は現場の責任者としてお客様対応やスタッフの管理をしていました。ただ、経営の具体的な部分、特にお金に関する部分は母が担っていました。
しかし、コロナ禍で経営が厳しくなるにつれて、「このままではいけない」という危機感が強くなっていきました。6年ほど前から、母には「そろそろ変わるべきではないか」と話していましたが、親子だからこそ簡単には進まない部分もありました。
岡本:親子間の事業承継は、会社の話でありながら家族の話でもあります。だからこそ、感情面も含めて難しさがありますよね。
小田:そうですね。最終的には、税理士さんの助言もあり、2025年8月に事業承継を決断しました。私と妻で株式もすべて引き継ぎ、私が代表取締役、妻が取締役に就任しました。母は会長として、今も会社を支えてくれています。
社長になって初めて感じた責任の重さ
岡本:代表になられて、気持ちの変化はありましたか。
小田:まったく違いますね。代表になる前も、もちろん会社のことは考えていました。ただ、実際に代表になると、責任の感じ方がまるで変わりました。
特に強く感じたのは、「社員とその家族の生活を守らなければならない」ということです。売上を上げること、利益を出すことはもちろん大切です。でも、利益だけを追いかけていると、その気持ちはお客様にも伝わってしまうと思っています。
大切なのは、お客様から応援される会社であること。そして、自分自身も応援される経営者であること。そのことを、代表になってからより強く考えるようになりました。
岡本:立場が変わることで、経営者としての視座も変わったのですね。株式の承継まで含めて進められたことも、事業承継において非常に大きな意味があると思います。
コロナ後に変化した売上構成
岡本:現在、美容室とブライダルの売上比率はどのくらいですか。
小田:以前はブライダルが7割ほどでしたが、今は美容室が6割、ブライダルが4割くらいになっています。コロナ禍の影響でブライダルが大きく落ち込んだこともありますが、その分、美容室の売上を伸ばす努力をしてきました。
お客様に継続して通っていただける美容室としての価値を高めること。そこに改めて向き合ったことで、少しずつ今の形になってきたと思います。
強制しない。自主性を大切にする組織づくり
岡本:スタッフの皆さんがとても明るく、挨拶も元気だと感じました。社員教育で大切にされていることはありますか。
小田:「明るくしなさい」と強制することはしていません。強制すると、どうしても反発が生まれると思っています。
もちろん、ミーティングでは会社の方針や目標を共有します。ただ、基本的にはスタッフの自主性を大切にしています。自分たちで考え、自分たちで動いてもらう。その方が、結果的に良い雰囲気になると思っています。
以前から大切にしているのは、「黒子に徹する」という考え方です。特にブライダルの仕事では、主役はあくまでお客様です。私たちは、その大切な日を美しく引き立てる存在であるべきだと思っています。
岡本:「黒子に徹する」という言葉は、とても深いですね。技術だけでなく、仕事に向き合う姿勢そのものが表れているように感じます。
今は拡大よりも、足元を固める時期
岡本:今後のビジョンについてはいかがでしょうか。
小田:本来であれば、店舗数を増やしたり、いろいろな形態の美容室を展開したりしたい気持ちもあります。ただ、今はもう一度足元を固めるだと考えています。
まずは今の店舗をしっかり継続し、利益を上げていくことに注力したいです。そのうえで、2階にある着付け室や事務所スペースを有効活用できないかとも考えています。
例えば、ヨガ教室やセミナーなど、地域の方々が自由に使える貸しスペースとして活用することも検討しています。美容室としてだけでなく、地域の方々が集まれる場所になれたらいいですね。
後継者に伝えたいこと
岡本:最後に、これから事業承継を考えている後継者の方々へ、メッセージをお願いいたします。
小田:大切なのは、「仲間」がいることだと思います。私自身、同友会で多くの経営者の仲間と出会い、たくさんのことを学びました。苦しい時には相談にも乗ってもらいました。
経営の悩みは、経営者でなければなかなか理解してもらえない部分があります。だからこそ、自分の思いや悩みをさらけ出せる仲間を増やすことが大切だと思います。
もう一つは、自分の弱さを打ち明ける勇気を持つことです。
コロナ禍で会社の経営が厳しかった時、私は初めてスタッフ全員に、会社の借金や苦しい状況を正直に伝えました。とても言いにくいことでしたが、伝えたことでスタッフが「自分たちも頑張らなければ」と奮起してくれました。
経営者がスーパーな人間である必要はありません。弱さを見せることで、周りから助言やフィードバックをもらうことができます。それが、より良い経営者になるために必要なことだと思います。
編集後記
父から母へ、そして小田社長へ。
三代にわたって受け継がれてきた有限会社ドルチェの歩みは、決して順風満帆なものではありませんでした。
父の急逝。
熊本地震。
コロナウイルスによるブライダル事業への大打撃。
それでも、小田社長は一つひとつの困難と向き合いながら、会社を守り、社員を守り、お客様との信頼を大切にしてきました。
事業承継とは、単に代表者が変わることではありません。
会社の歴史、家族の想い、社員の生活、お客様との信頼を引き受けることでもあります。
小田社長の言葉からは、後継者としての覚悟と、人を大切にする経営の姿勢が伝わってきました。
有限会社ドルチェ様のこれからの挑戦が、地域をさらに美しく、明るく照らしていくことを楽しみにしています。
有限会社ドルチェ様のHPはコチラ
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